東京高等裁判所 平成7年(ネ)2820号 判決 1996年2月29日
主文
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人らは、控訴人らに対し、原判決別紙第一物件目録記載のポールを撤去せよ。
三 訴訟費用は、第一、第二審を通じ、被控訴人らの負担とする。
理由
【事実及び理由】
第一 当事者の求める裁判
一 控訴人ら
主文同旨
二 被控訴人ら
控訴棄却
第二 事案の概要
事案の概要は、原判決の事実及び理由の「第二 事案の概要」欄の記載のとおりであるから、これを引用する。
第三 当裁判所の判断
一 本件における事実関係についての当裁判所の判断は、原判決一一枚目裏七行目の次に改行して、次のとおり加えるほか、原判決の事実及び理由の「第三 当裁判所の判断」中の一の部分(原判決六枚目裏九行目から同一一枚目裏七行目まで)説示のとおりであるから、これを引用する。
「12 なお、控訴人らは、平成五年一一月ころまでに原告らの土地と本件私道との境界に設置されていたブロック塀を撤去し、道路の中心線から二メートルの位置に新しくブロック塀を建設した。この結果、原告らの土地付近では、道路幅員が四メートルとなっている。」
二 控訴人らの地役権の主張に対する当裁判所の判断は、原判決の事実及び理由の「第三 当裁判所の判断」中の二の部分(原判決一一枚目裏八行目から同一四枚目表五行目まで)説示のとおりであるから、これを引用する。
三 控訴人らの二項道路に関する主張についての当裁判所の判断は、原判決一五枚目表七行目から同一六枚目裏三行目までを次のとおり改めるほか、原判決の事実及び理由の「第三 当裁判所の判断」中の三の部分(原判決一四枚目表六行目から同一六枚目裏三行目まで)説示のとおりであるから、これを引用する。
「2 本件私道は、建築基準法四二条二項の規定による指定を受けた結果、同法四四条一項の規定によりその地上に建築物を建築することが禁止される等公法的な規制を受け、指定された私道の所有者は、道路としての機能を維持し、公共の安全のために提供しなければならなくなり、その反射的利益として、一般人は、右私道をその形状の限度において自由に通行する権利を有することになる。その結果、右反射的利益として通行の自由を享受する者は、右通行が妨害された場合には、通行の自由権(人格権)に基づき、通行妨害の態様、指定された道路の使用状況等によっては、通行妨害の停止や、予防を請求することができることとなると解すべきである。
ところで、本件ポールが建築基準法で禁止している建築物に該当せず、本件ポールの設置が建築基準法に直接違反するものということもできないことは前記したとおりであるが、建築基準法は、建築物の敷地、構造等に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的とする法律であって(したがって、同法で建築物以外のものについての規制を定めることはできない。)、建築物以外に関する定めを設けていないとしても、公共の福祉の増進のために道路の通行を確保する必要性があることは否定できない。建築基準法の規定の趣旨からすると、二項道路は、将来のいずれかの段階では、幅員四メートルの道路が一般公衆の通行に供されることとなることを予定しており、それまでの間は、二項道路に接した建物の改築に伴い徐々に道路の中心線からの後退が行われ、その後退の状態に応じて、一般公衆の通行が拡大していくことを予定しているものと解されるのであり、現状での通行可能な範囲を著しく制限する行為は、建築基準法の趣旨に反するものと解すべきである。東京都中野区環境建築部建築課長も本件ポールの設置が建築基準法の趣旨に反する旨指摘している。
確かに、一で認定したとおり、本件私道を四輪自動車が通行可能となった(それも、本件私道の北側部分では道路中心線からの後退が行われていないため、原告らの土地から南側公道への通行の範囲に限られている。)のは昭和五九年五月の被控訴人らのマンション建設以来のことにすぎないし、現実に四輪自動車が通行したのは、平成二年の例外的な一年間のみであり、控訴人らが四輪自動車により通行したものではないし、原告らの土地も、久江の死亡後、工事関係の自動車の臨時駐車場として利用された特定期間を除いて、相当期間利用されていなかったし、本件私道の四輪自動車による通行が、一般公衆に保障されていたものでもなく、本件ポールの撤去を求めるのも、差し当たり原告らの土地を居住用としてではなく、賃貸駐車場として利用する目的であり、控訴人らの日常生活に必須の要請であるとは認め難い面があることも否定できない。
しかし、道路の通行の自由が確保される必要があるのは、本件私道に接する土地の居住者が利用する場合に限定されるものではない。しかも、本件の場合には、本件ポールの設置により、緊急自動車の本件私道への進入が制限される事態の発生も予想される。このような事態の発生も予想されることからすれば、本件ポールの設置による四輪自動車の通行妨害は、公共の福祉に反し、違法なものというべきである。本件私道の利用の直接の目的が原告らの土地を駐車場として使用し、そこへ出入りする他人所有自動車のためのものであるからといって、右違法性がなくなるものではない。
したがって、控訴人らは、通行の自由権(人格権)に基づいて、本件ポールの撤去を求めることができるものと認めるのが相当である。」
四 なお、被控訴人らは、控訴人らの先代が本件私道部分の一部買取りを拒否したこと、控訴人らが被控訴人らから指摘するまで道路中心線からの後退をしていなかったこと、近隣住民が原告らの土地が駐車場として使用されることに反対していることを理由に、控訴人らの請求が権利の濫用、信義則違反として許されない旨主張している。
一で認定したとおり、控訴人らの先代が本件私道の一部の買取りを拒否したこと、控訴人らが原告らの土地のブロック塀の後退をしたのは、平成五年になってからであることが認められるが、これらの事情の存在によっても控訴人らの請求が権利濫用、信義則違反となると認めることはできない。控訴人らの先代が本件私道の一部の買取りを拒否した時点では、既に本件私道が存在し、二項道路の指定もされていて通行の自由が認められていたし、また、控訴人らも既に建築基準法が要求する道路中心線から二メートルの位置にブロック塀の移築を終えているからである。また、近隣者に駐車場の設置に反対の意見を有するものがあったとしても、本件は、二項道路の通行の自由に関するものであるから、それによって結論が左右される性質のものでないので、この点の被控訴人らの主張も理由がない。
第四 結論
よって、控訴人らの請求は理由があるから、原判決を取り消し、控訴人らの請求を認容することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法九六条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 野田 宏 裁判官 田中康久 裁判官 高橋勝男)